卒業論文 第2回レジメ (2002.5.27) 国際社会学科4年 磯 加奈子
「中国におけるディズニーランド誘致と政府対応」
香港にディズニーランドができることが正式に決定された。アジアで2番目、世界で5番目のディズニーランドとして、新空港のあるランタウ島に2005年に開業予定だそうだ。発表会見では、ディズニー側代表、ミッキー・ミニーマウスとともに、董建華行政長官が出席するなど、香港政府挙げての歓迎ぶりである。香港側は、香港政府がインフラなどに約224億5000万香港ドルを投資し、用地の造成や交通網整備なども請け負う。開園後の管理も、香港政府とディズニーの共同出資の「香港国際テーマパーク」があたることになっている。これら莫大なプロジェクトで、ディズニー側の投資は、全体のわずか10%の24億5000万香港ドルのみ。このことを初めて知った時、香港政府がこんなにも積極的にディズニーランド誘致をもちかけるのには、何らかのメリットがあると思い、今回はそのことについて調べてみようと思う。
以下 http://www.jil.go.jp/kaigaitopic/2000_02/honkonP01.htm より抜粋
合意内容とそれによる経済効果等の予測は概略以下のとおりである。
この香港ディズニーランドは、米国外では、東京ディズニーランド、パリのユーロ・ディズニーランドに次ぐ3番目のもので、後2者の入場料、年間入園者数を香港と比較すると次のようになる。
東京ディズニーランド:入場料、大人390ドル、小人267ドルから344ドル、年間入場者数1700万人;ユーロ・ディズニーランド:入場料、大人274ドル、小人212ドル、年間入園者数1260万人(ちなみに老舗の米国アナハイム・ディズニーランドでは、大人308ドル、小人245ドル。これは米国内の他のディズニーワールド等でも同じ)。
このような香港観光の将来を左右する巨大プロジェクトに対して、各方面から以下のような様々な反応が出ている。
観光業界、航空業界、小売業会、ホテル業界等は歓迎の意を表明している。香港観光業協会は、1999年度は1040万人の観光客の来訪を予測して(前年比9%増)、香港返還後の観光業の低迷から復活の兆しを見ているが、ディズニーテーマパークは中国本土と東南アジアからの観光客の増加にさらに資すると歓迎しており、キャセイ・パシフィックも航空業界の活性化につながると歓迎の意を表明している。
政党も、親北京派や経済界に近い政党等、概ね政府決定を香港経済の活性化に資すると支持しているが、リベラル派の民主党は、政府がディズニー社に対して、合弁会社の株式保有率や建設費用負担等で、譲歩し過ぎたのではないかと疑問を呈している。また雇用についても、現地の労働力が雇用される確実性につき、問題視する向きもある。
また環境保護団体からは、特に建設に伴う埋め立てにより、香港の自然環境が破壊される可能性があり、近海に棲息する白イルカなどの生態系に深刻な影響が出るとの懸念が表明されている。
これに対して董建華長官、アンソン・チャン政務官をはじめとする政府当局者は、アジア経済危機の後の香港市民に対する心理的効果としても、アジアで2番目のディズニーランドの建設は大きいとしており、また経済効果が過大評価されているとの一部学会やエコノミストの指摘に対しても、政府予測は控え目な数値であり、特に136億ドルの政府支出はインフラ整備と交通網整備など、テーマパークだけに資するものではなく、香港にとって永続的価値をもつとしている。また、ヴァーチャル・リアリティー効果を駆使するハイテク設備をテーマパークの目玉にすることにつき、これは政府の香港産業ハイテク化構想とも一致するとしている。さらに雇用についても、地元の労働力を優先させる旨再度表明しており、環境に対する影響についても、ディズニー社がコメントを出し、世界各地のディズニーランドで経験を積んでおり、その経験を十分に生かして香港でも開発に取り組むとしている。
董建華長官は、近い将来のユニバーサルスタジオの香港導入等についても、米国からの問い合わせに言及しており、今回のディズニーランドに限らない香港観光業の一層の推進を示唆している。ただ、21世紀の香港観光業の発展にとっての鍵は、中国本土からの観光客の一層の増大であるとされており、この関連で現在の中国本土からの旅行者の人数制限の手続的緩和が問題になっている。この点につき、銭其シン中国副首相が11月22日、香港ディズニーランド開園に向けて中国本土からの旅行者の人数制限の手続きを緩和する旨表明しており、このような中国政府の姿勢からも、香港観光業は21世紀に向けて大きな一歩を踏み出したと言えそうだ。
以下 http://world-reader.ne.jp/renasci/now/t-katayama-991111.htmlより抜粋
中国政府としても、経済の改革開放の最前線である上海に誘致したかった。上海政府も、その気だった。政治的色合いの強いオリンピック誘致を北京に譲った上海としては、商業ベースのディズニーランドは取りたかったのだろう。香港に決定という報道がなされたとき、朱鎔基首相は記者会見で「上海ではなく香港に決まって、悔しいと言う感はないが・・・」と言う意味の言葉を語っている。上海市長を経験して、浦東地区の開発を立ち上げた朱鎔基としても、個人的な感情があったのだろう。その後、香港決定は白紙に戻された。
しかし何よりも大国そして香港の本国である中国としての面子が、ディズニーランド誘致にこだわった。またディズニーランド開園によって、外国からも莫大な観光客が見込め、新たな外貨獲得手段になる。90年代に入ってからも、中国は○×観光年というようなキャンペーンを何度も張って、外国人観光客獲得に躍起である。
結果的には、香港側が有利な条件を出したこともあり、ディズニーが香港を選んだ。ディズニーランド経営は、あくまでもビジネスであり、またアメリカ的ではあるが夢を売る商売である。そのためにベターなインフラを備えた土地が香港であったと言えるかもしれない。
1700万人の人口を持ち、後背地に数億という人口を抱えた上海よりも、人口わずか650万人で東南アジアなどから数万人程度の観光客と、広東省からは数十万人規模の観光客を期待できるに過ぎない香港が、選ばれた。上海でも、大したことの無い観光地や遊園地、プールの入園料が100元近くもするくらいだから、高額入園料を払う客は十分に確保できるはずだ。やはり決め手は、ソフト面でのインフラの確保能力の差だったのだろう。客が入って儲かれば良いというだけの話ではない。あくまでも、ディズニーという看板を守らなければならないのだから。
ディズニーランドが香港へ進出し、また中国政府も上海への誘致を展開したということは、それだけ入園客が確保できるということ、言い換えればディズニーランドやディズニー・キャラクターを好きな人々が大勢いるということを、ディズニー側も中国側も認識しているということである。なぜ人々は、そんなにもディズニーが好きなのだろうか?
アメリカ以外には、日本の東京(正確には千葉)とフランスのパリ郊外にディズニーランドがあり、それぞれの地域の特徴を活かしたアトラクションも取り入れられているものの、基本的には純粋なディズニー色が大部分を占めている。そして多くの入園者がある。例えば東京ディズニーランドの現在の入園者は、年間約1700万人である。果たして、ディズニーの魅力とは何なのか?
今思い返せば、憧れのアメリカに行った、しかも日本でも身近に触れていた流行しているミッキーやドナルドなどのディズニー・キャラクターを実際に見ることができた。さらには東京には無いアトラクションやキャラクターを経験して、優越感のようなものに浸った。アトラクションで話されている英語がよく分からなくても、英語を話しているミッキーを目に前に見ているという感激が先立っていた。
結論を言えば、アメリカに憧れており、実際にそのアメリカに触れることができたということになろうか。そしてアメリカの魅力とは、多民族に訴えることのできる通文化的な普遍性持ち、外国人にも理解できるものなのかもしれないが、やはりアメリカ内で経験したことによって魅力が倍増したような気がする。実際のところ、我々の深層心理には、強大な軍事・経済力を有し、豊かであり続けているアメリカへの憧れが存在すると思う。それにアメリカは自由の国というイメージも強い。
その豊さと自由の象徴が、キャディラックでありハリウッド映画でありディズニーランドなどで、憧れの対象になっていると言えよう。第2次世界大戦後、世界の中でダントツに豊かで、もちろん金を持っているという意味での豊かではあるが、単独で世界の覇権を握るほどの強大な国力を有しているアメリカは、それらに裏付けられた文化力を増強し、同時にその強大な文化力が、軍事・経済力が相対的に衰退して弱体化する総合的国力を補強しているのだ。コーラやハンバーガーが世界的に売れ、また弊誌第40号でも書いたが、エスプレッソ・コーヒーを好み、そのなかでもスターバックスのコーヒーを飲みたいと思う心理も同様であろう。
アメリカ人以外の人々も、多くがディズニーを好むということは、アメリカ文化のひとつの象徴としてのディズニーに魅せられているというように理解できよう。(付け加えれば、現在の私にとって、ディズニーは別にどういう存在でもなく、特に行ってみたいとは思わないが、でも若いときにディズニーランドを経験し、そこでアメリカらしさというものを実感し、ディズニーを楽しむアメリカ人の老若男女を観察することができたことは、大変意義のあることで、現在のアメリカや世界理解の助けとなり、いろんな意味で自分のアイデンティティの確認に役立っていると断言できる。)
いわば日本社会は、将来に対して八方塞の危機的状態にあるにも関わらず、一時的逃避のための「癒し」を求め、その一方で日本のものとは違うディズニーランドには行きたいと無邪気に思う刹那的な心理に状態に逃避している。東京ディズニーランドの2001年の入園者予想は、現在より800万人増の2500万人である。日本は所詮他人の後塵を拝するのが精一杯で、世界に通用する普遍的な構造的システムを創造する能力に欠けているのだろうか?いや日本はまだ手後れになる前に、独自性を保っている中国というアメリカとは違う存在から、何かを学び活用することができるはずだ。
反対に、中国の一部である香港にディズニーランドができ、中国人がそれを経験できるということは、中国にとってはアメリカ文化と中国文化を、自分が体験することで相対的に考えることができるという意味で、非常に意義があると思う。中国は常に、執拗なまでに中国文化や中国的特徴に固執し、時に外国への極端な排外的な行動を取るものの、その基礎には中国の伝統を維持し続けているという優れた点がある。言い換えれば、社会病理を抱える現代社会への反発姿勢を保っている。この中国的伝統を通して、アメリカ的なディズニーを経験することで、見えてくることが少なくない。これらは中国のみならず、アメリカや日本、世界にとって、硬直する国際社会システムへの処方箋を探すのに、大いに示唆的なものであろう。盲目的にアメリカ文化に傾倒することのない中国に、注目したい。
収益確保を第一とするビジネスとしては、香港ディズニーランドは成功するだろう。香港では、20年ほど以前から日本への「絶叫マシン体験ツアー」たるものが人気で、日本へ観光旅行に行くついでに、遊園地で巨大で高速のジェットコースターなどに乗るツアーが多数あった。それが10年前に東京ディズニーランドが開園してからは、観光+ディズニーランドが定番と化している。
東京ディズニーランドの現在の外国からの観光客は年間約50万人で、そのうち香港からの観光客が占める割合は小さくないと推測される。また東南アジア方面からの観光客も多く、香港と東南アジア、台湾、韓国など で、外国観光客の大半を占めているのが実際のところだ。彼らの多くが、香港ディズニーランドへ流れると思われる。
香港の人口は約650万人であるが、そのなかに年に何度も通うリピーターもいるだろうし、また香港を訪れる外国人観光客にとっても、魅力の観光スポットになることは間違いない。そして何よりも、隣接する広東省を始め大陸中国からの観光客も見逃せない。香港ディズニーランド側は、2005年の開園初年度の入場者を、500万人と見込んでいる。
ディズニー側は園内の設計に東洋的な雰囲気を出し、言語は広東語、北京語、英語の三つになるそうだ。果たしてアメリカ式のディズニーランドが香港にできるのか、それとも香港的なディズニーランドになってしまうのかは定かではない。アトラクションの内容や園内への飲食物の持ち込み禁止のルールの施行など、これから手探りで模索して行くのであろう。
仮に成功の可能性が無いと判断さえれば、ディズニー側は撤退するのみだ。投資は小規模なので経済的損失も小さいし、ディズニー・ブランドのイメージが傷つく前に、撤退しやすい環境を整えている。仮にディズニーが撤退することによって生じる最大の影響力は、「やはり、香港は、いや中国は駄目だなー」という偏見が、国際的に定着することであろう。そうなれば外国からの投資や中国、香港企業の海外進出などにもマイナスの影響を与えてしまう。こういう事態を避けるためにも、香港、中国側は香港ディズニーランドを成功させたいに違いない。
今後の予定
具体的に今回掲載したことについてもう少し掘り下げて調べてみたい。2005年に香港に開園される予定だが、
香港の人々はこのことについてどのように受け止めているのか、聞ければよいのだが。